― 支援を「賭け」にしないために ―
就労継続支援B型で物販を考えたとき、最初に出てきやすい案が「利用者と一緒に店舗へ行く」という方法です。
一見すると、社会参加・実地訓練として正しく見えるかもしれません。ですが、サビ管の立場からはっきり言います。複数人の特性を抱える利用者を、スタッフ1人で店舗に同行させるのは、支援ではなく“賭け”です。
パニック障害、強迫性障害、感覚過敏。
どれも日常では安定していても、「人・音・匂い・視線」が一気に押し寄せる店舗環境では、何が引き金になるかわからない。
もしその場で1人が崩れたら、他の利用者、店側、一般客、すべてに影響が及びます。
これは経験や気合でカバーできる話ではありません。事故が起きなかったことを「成功」と勘違いしてはいけない領域です。
私が特養で身体介助をしていた頃、教え込まれたのは「動作を丸ごと見ない」ということでした。
立ち上がり、重心移動、関節の可動域、筋緊張。
一つでも見落とせば、転倒や骨折につながる。だから介助は必ず工程分解します。
この視点は、物販作業にもそのまま当てはまります。
「仕入れ」や「販売」という言葉で括るのではなく、
・どこを見るのか(眼球の動き)
・どれくらい集中が続くのか(5分か、15分か)
・判断が必要か、不要か
こうした要素に分解して初めて、「仕事」になります。
店舗同行は、この分解が一切できません。
環境も刺激も判断も、すべてが同時進行です。
それを「経験になるから」「慣れれば大丈夫」という言葉で押し切るのは、支援ではなく現場放棄に近い。
だから私は、「人を外に連れ出す」やり方を選びません。
仕事を分解し、コントロールできる形にして、事業所の中に持ち込む。
それが、事故を防ぎ、職員を守り、利用者の「できた」を積み上げる唯一の現実的な方法だと考えています。
委託販売型「地域連携モデル」の全貌
― 利用者を動かさず、仕事を動かす ―
私が選んだのは、「利用者を店に連れて行く」物販ではありません。
仕事そのものを、事業所に持ってくるという発想です。
地域のおもちゃ屋やリサイクルショップには、売れないまま棚に眠っている商品が必ずあります。
流行が過ぎた、箱が少し潰れている、ネット販売に手を出す余力がない。
商品としての価値はあるのに、現金化できずに場所と資金を圧迫している在庫です。
そこで提案したのが、委託販売型の地域連携モデルでした。
こちらは仕入れをしません。
商品は預かるだけ。売れた分だけ精算する。
利益は 6:4。
6を事業所、4を店舗側。
この数字に、特別な根拠はありません。ただ、「お互いが続けられるライン」を探った結果です。
店側にとってのメリットは明確です。
・不良在庫が現金に変わる
・値付けや出品の手間が減る
・福祉事業所との連携という社会的意義(CSR)
実際、「捨てるしかなかった在庫が、誰かの工賃になるなら」と背中を押してくれた店主もいました。
事業所側の安心材料は、さらに大きい。
仕入れ資金ゼロ、在庫リスクゼロ。
売れなければ返すだけ。赤字にはならない。
これは、工賃を扱う福祉現場において致命的に重要です。
作業はすべて事業所内で完結します。
検品、清掃、写真撮影、梱包。
前章で触れた「工程分解」が、ここで初めて力を持ちます。
判断が必要な部分は職員が担い、手順化できる作業を利用者が担当する。
外の環境に振り回されることなく、「できる仕事」を積み上げていく。
このモデルは、派手さはありません。
一攫千金もありません。
ですが、現場を壊さず、関係者全員が無理なく続けられる。
それこそが、就労支援で選ぶべき物販の形だと、私は考えています。
― 国内から世界へ。一軒のおもちゃ屋から始まる「革命」 ―
おもちゃ屋さんの棚に眠っていた、少し埃をかぶったプラモデルや、何年も動いていない古いゲームソフト。これらは、日本の片田舎では「不良在庫」かもしれません。
しかし、一歩外へ目を向ければ、世界中にそれを喉から手が出るほど欲しがっているコレクターがいます。
私は、この委託販売の出口に、国内フリマアプリだけでなく**「eBay(イーベイ)」**という越境ECを組み込んでいます。 なぜ、世界なのか。 それは、国内では二束三文にしかならないものが、海外では数倍、時には十倍以上の価格で取引されるからです。
この「利益の差」こそが、内職の1円を積み上げる虚しさから私たちを解放してくれます。
もちろん、いきなり海外発送はハードルが高く感じるかもしれません。ですが、これも「工程分解」の地続きです。 「英語を話す」必要はありません。翻訳ツールを使い、決まった手順で送り状を出す。その一つひとつの作業を、利用者の特性に合わせて切り分けていくだけです。
自分が清掃し、撮影した商品が、海を越えてアメリカやヨーロッパへ届く。 その事実を知った時、利用者の表情は確実に変わります。「自分は世界と繋がっている」という自負が、彼らの尊厳を支えるのです。
一軒のおもちゃ屋さんと繋がることは、単なる「作業の確保」に留まりません。 信頼が積み重なれば、そこから問屋を紹介されたり、別の商店街の店主に繋がったりと、可能性は蜘蛛の巣のように広がっていきます。
サビ管の皆さん。 今の現場を変えるために、特別な補助金や魔法のような制度を待つ必要はありません。
必要なのは、あなたの「一歩」です。 一通の電話、一回の訪問。そこからすべてが始まります。
「きれいごと」では工賃は上がりません。 でも、仕組みがあれば変えられる。 利用者の未来のために、そして、現場で共に闘う職員たちのために。
まずは明日、近所のリサイクルショップや商店街を、いつもとは違う「サビ管の目」で歩いてみることから始めてみませんか。


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